2017年9月18日月曜日

河合隼雄が選んだ楽器

少し前に、河合隼雄(1928~2007)の『ナバホへの旅 〜たましいの風景』という本を読んだ。


この本は臨床心理学の第一人者である著者が、アメリカ先住民のナバホ族を訪ねて、メディスンマン(医師の役目を果たす祈祷師)との対話を重ねて「癒しの文化の深層」について書いた本だ。

メディスンマンについて書かれた文章はいずれも好意的で、また自分とメディスンマンとの治療方法を比べて愛嬌のある競うような記述もあったりで微笑ましくて、この本を読みながら私は「はは〜ん隼雄先生、実はシャーマンに憧れてるのかな」と思ったりした。


そこで、著者がフルートを吹く人だったというのを思い出した。
フルートといえば、ギリシャ神話では男の神が愛をささやく時に使ったり、またハーメルンの笛吹きとか、横笛は人の心を誘導する力を兼ね備えていて、シャーマンっぽい要素がたっぷりだと思いついた。

それで私は「河合隼雄はシャーマン願望ゆえに、フルートを選んだのではないか説」を作って人に吹聴しまくっていた。
ところがそれから少しして、私よりずっとずっと河合隼雄に詳しい方に「河合隼雄は本当はオーボエをやりたかったけど、お金がなかったからフルートにした」という話を教えてもらった。そのことを書いた本があるということで、ぜひに!と催促して貸して頂いた。



その本は河合隼雄・吉本ばななの対談集で、『なるほどの対話』

お二人ともいい顔してるな〜


読むと本当に書いてあった。しかも吉本ばななもフルートを吹くらしい。
抜粋すると・・・
河合 ぼくの場合は、学生時代、はじめてオーケストラを聴いたときに、オーボエの音がものすごくきれいだから、あれがやりたいと思ったんですよ。ところがね、値段が高いんですよ、オーボエは。
吉本 え?そんな理由で?(笑)
河合 ええ。フルートは安いんですよ。フルートなら中古品だったら買えたんですよ、アルバイトすれば。ということもあってフルートに。いま考えたら、フルートのほうが合ってると思います。そやけど、はじめはオーボエがしたかった。

フルートの名誉のために言うと、フルートにも驚くような高い値段の楽器はあるのだけど、金属の質によっては、中古品にとても安い楽器があるというだけで・・あぁびっくりした(笑)

オーボエの音は美しく、そして語弊を怖れずに言えば、愛すべき「おっちょこちょいな」音も持っていると思う。


オーボエはダブルリードで、クラシックの管楽器でダブルリードなのはオーボエとファゴットだ。
オーボエの音色は、日本の管楽器でいえば、やはりダブルリードの篳篥(ひちりき)に似ていると思う。
雅楽の世界観では、笙(しょう)は天の光を表し、龍笛は天と地をつなぐもの、そして篳篥は地にいる人間の声だ。オーボエもやはり、人の声なのだと思う。


さっき私は、オーボエに「愛すべきおっちょこちょいな」音もあると書いた。
私は普段、人のおっちょこちょいな部分にこそ、その人間の魅力が出ていると思っていて、逆に言うと「おっちょこちょい」な部分が見えてこない人には人間味を感じないというか、愛嬌、愛着を感じづらい。


河合隼雄が「人間に興味があって、しかも類い希な心理学の感性」を持ってオーボエを聴いたと思うと、なんだか感動するような気持ちになる。そして彼はシャーマンとなって人々を導くというよりは、好奇心を持って人間と対話するスタンスを大切にする人だったのかな、と今は思ったりしている。

彼がオーボエに惹かれたのは、地の声に対する憧れなのか、親しみなのか、そんなことを台風の夜に考えている。


ベルリンフィルのオーボエ奏者、クリストフ・ハートマンが
ユーチューブ・オーケストラ(!)の若者たちにレクチャーするマスタークラス。




こちらは白鳥の湖4幕の冒頭、オーボエのソロ。
な〜んて美しい音色なんだろう、ってこの人うまい〜ッ・・・



2017年9月4日月曜日

孤独と、哀しみと、愛と、慈しみと

今日はショスタコーヴィチを聴いていた。
彼のゆっくりした楽章の、純粋な美しさにずっと惹かれている。

ショスタコーヴィチ:ピアノクィンテット 第1楽章
Shostakovich (pf) Beethoven Quartet


ショスタコーヴィチの特徴は、音の線と線が交錯して世界を構築していくところにある。

複雑に交錯した何本もの線は、人生の交差点であり、男女の交差点でもある。そして時間の経過を確かめながら心の機微を語っていく。。


ピアノクィンテット 第2楽章
Shostakovich (pf) Beethoven Quartet


ショスタコーヴィチの織りなす音は、人間の孤独、哀しみと、純粋な愛、そして慈悲とが交錯して幾重にも広がっていく。

そのとき、人間の持つ最も清らかな心像が、音の波紋となって人生に広がっていくのだ。



ショスタコーヴィチ ピアノコンチェルト2番 第2楽章
Shostakovich (pf) Andre Cluytens(cond)



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